『黄色いキリスト』
ポール・ゴーギャン作
製作:1889
所蔵:オルブライト=ノックス美術館
19世紀後半のパリ。
ゴーギャンは、余暇を使って絵画を制作する
いわゆる日曜画家でした。
優秀な株式仲買人として、安定した生活を送っていましたが、
30代後半で、脱サラ。
本格的に絵画の道へすすみます。
ゴーギャンといえば、
南仏アルルでの「ゴッホ」との共同生活や、
タヒチでの活動が、一般的によく知られていますが、
アルルや、タヒチに渡る前に、
3度ほど滞在するのが、ポン=タヴェン(ブルターニュ地方)です。
>フランス北西部のブルターニュ地方_地図画像
(赤いマークのついているところ)
今日の一枚には、磔刑の図が含まれてはいるものの、
風景は、ゴルゴダの丘ではなく、
周囲にいたはずの、聖母マリアや使徒ヨハネ、
ローマの兵士たちは見当たりません。
穏やかな表情のイエスの周りを、
ポン=タヴェンの豊かな自然と、地方の衣装に身を包んだ女性たちが
静かに囲んでいます。
この作品は、イエスの磔刑像と、
現実に見えている風景とを組み合わせて
ゴーギャン自身の心象、あるいはここに描かれた女性たちの幻影を
描いていると解釈されます。
「黄色いキリスト」は、
ポン=タヴェンの、ある教会(トレマロ教会)の中に掲げられている、
黄色みがかった木彫りの磔刑像を、描写したものです。
他の記事で、「キリスト教絵画」には、
「聖書の内容を絵で伝える」という役割があるということや、
19世紀半ば頃までの絵画は、
社会の中で、伝えるべきメッセージを持って描かれていること、
そのため、一定のルールが存在することなどをお伝えしました。
今日の一枚は、そのような概念では説明ができません。
「キリストの磔刑」を描いているので、
「キリスト教絵画」という捉え方も可能ではありますが、
本来的な意義であった、
宗教的教えを世に伝えるというところからは
すでに遠く離れています。
途中の経緯を飛び越えますので、
非常にざっくりとした説明になりますが、
この頃の絵画は、
社会のなかで伝えるべきメッセージではなく、
画家が個人的に発信したい思想をテーマに、
伝統から離れた技法で描かれます。
近代以降の絵画には、グループによって、
また画家個人によっても、
それぞれ違った見方や解釈が求められます。
分かれ目になるのは、(おおよそ、ですが)印象派以前と以後。
両者のそれぞれに、
全く別の種類の魅力と、絵解きの面白さがあるのです。
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