受胎告知 レオナルド・ダ・ヴィンチ

十枚十色(解説&エッセイ)

『受胎告知』
レオナルド・ダ・ヴィンチ作
製作:1472-75
所蔵:ウフィツィ美術館


この絵のテーマは、
多くの画家によって、繰り返し描かれた「受胎告知」です。


「おめでとう、恵まれた方よ。主があなたと共におられる」突然の天使の来訪。


これは何ごとかと、マリアは驚き戸惑います。ー(*1)

天使は続けます。

「恐れることはありません。あなたは神から恵みをいただきました。

あなたは、身ごもって男の子を産みます。その子をイエスと名付けなさい」




その言葉を聞き、マリアはさらに驚きます。ー(*2)

「そんなことがあるでしょうか。私は、男の人を知りませんのに」



マリアの胎内に、聖霊によって
神の子が宿ったことを天使が伝えると、

マリアは、静かにそのお告げを受け入れます。ー(*3)


「私は、主の婢女(はしため)です。お言葉のとおりになりますように」





受胎告知は、聖書の逸話のなかでも、
とりわけ有名で、重要です。


イエスの降誕から9ヶ月遡る、
3月25日の出来事とされています。


この短いシーンのなかで、マリアの心情は、


・驚き ー(1)

・戸惑い ー(1)(2)

・神への畏怖 ー(2)(3)

・従順な信仰心 ー(3)


と、微細に変化していきます。




画家が、このシーンを絵に描く場合には、

マリアの心理のうちのいずれかが、
クローズアップされます。



このページで紹介している
レオナルド・ダ・ヴィンチの「受胎告知」では、

マリアは、
右手を読みかけの本(旧約聖書)に置いたまま、

左手を軽くあげ
驚いたような仕草を見せています。




本作は、レオナルドの代表作のひとつとしても
よく知られる一枚です。



若い頃(20代前半)の作品ですが、
すでに、完璧な安定性に基づく構図が構築されています。



地面が描く水平線と、
建物や、背景の木々の配置による垂直線、


天使とマリアのそれぞれのポーズや、
左右の配置などが、

見た目に安定したバランスを生み出します。



春の訪れにふさわしい
克明な草花の描写からは、

レオナルドの
自然に対する関心の高さがうかがえます。





この場面で告知に訪れたのは、「大天使ガブリエル」です。


「天使」という文字が表すとおり、
天からのお使いで
本来は性別を超えた存在です。



ですが、「受胎告知」を描く絵画では、

乙女のマリアに懐妊を告げに訪れる
という設定のためか、

どちらかといえば
女性的な雰囲気で描かれる場合が多いです。



ガブリエルが手にしている白いユリは
マリアの純潔を象徴するものであり、


翼を持ったこの存在が、
「大天使ガブリエル」であることを示す目印(アトリビュート)です。






この記事でご紹介した、
ゴーギャンの作品(黄色いキリスト)は、


キリスト教絵画の紹介としては

変化球的なパターンでしたが、
今日の一枚は、直球です。



一般に「受胎告知」という場面で必要とされる
キリスト教絵画としてのルールと、


ルネサンス絵画らしい特徴
(遠近感、安定感、緻密さ)をもれなく含んでいます。





**********


このサイトの投稿では、
「新約聖書」のよく知られている逸話がテーマに
なっている数点の絵画をご紹介しています。


眼に映ったままの「画像」として、
絵画を鑑賞するのも、ひとつの楽しみ方ではありますが、

ルールや仕組みを知ることで、
絵画鑑賞・美術館巡りは、一層楽しくなります。



それは、スポーツ観戦や、星空の観測や、観劇など、
あらゆる「観る」ことと共通するように感じます。


球場に行けば、その場の「熱気」を感じることは
できるかもしれないけれど、


ゲームのルールや、選手の個性を知っていたら、
さらに楽しさ5倍・10倍、ということと近いと
言えるでしょう。




このページに辿りついた皆さまにとって、
絵画の世界に親しむきっかけとなれば、
とても嬉しく思います。



絵画の紹介(アートエッセイ)を
メールマガジンでも配信しています。

>7枚の絵画 無料メルマガはこちら

絵画を見る楽しさをお伝えしています
(登録無料・解除自由)

タイトルとURLをコピーしました