星月夜 ゴッホ

十枚十色(解説&エッセイ)

『星月夜』
フィンセント・ヴァン・ゴッホ作
制作:1889
所蔵:ニューヨーク近代美術館



ゴッホは生前、画家としての不遇を
経験していますが、

現代においては
高い人気と知名度を誇る画家です。


今日の作品に描かれているのは、
寝静まった街を包む星空です。

ロマンチックな印象を
受ける人もいるだろうと思います。

ゴッホについては……

・生前に売れた作品は一枚
(諸説あり)

・画商の弟を頼って生活

・画家仲間のゴーギャンとの諍いと耳切り事件

・若くして銃による自死


など、

画業以外の逸話の方が
よく知られているかもしれません。

37年の生涯で、
ゴッホが「画家」として活動したのは
27歳からの約10年。


彼の画風は、短い期間に
大きく変化しました。

私たちが「ゴッホの絵」として
認識できるような作品は、

亡くなる前から数えて
約3年で制作されたものに
限定されます。


もともとは宗教家を目指したものの、
その挫折という経緯から

ゴッホの作品の根底には、
祈りと救済が、静かに流れています。



今日の作品は、

ゴッホが、サン=レミ(南仏)の
療養施設に入っているときに
描いたものです。


濃い青色の空に、
明るく輝く大きな月と星、

大胆な曲線で埋められた宙は、
幻想的です。

ゴッホは、自らの意志で
サン=レミの療養施設に入りました。

アルルでの
ゴーギャンとの共同生活が

耳切り事件によって
破綻したあとのことです。

画面の向かって左側で
存在感を放っている糸杉は、

墓地の周りに植えられる木。



あちらの世界とこちら側を
つなぐ暗示的な存在です。

街並みの中央に見える教会は
実際の建物の描写ではなく、

故郷オランダで制作していた頃に
よく題材にしていた教会の形を
しています。



輝く星は11個。

キリスト教圏においては、

旧約聖書のヨセフの夢の話を
想う人もいるはずです。


物言わぬはずの空は
美しく、しかし激しく渦巻き、

星と月は、
今にも落ちてきそうなほどに、
強く瞬いています。

この作品は、
ゴッホの内面や、死生観を
代弁するように描かれています。



心の内側を、対象物に投影する様式を
「表現主義」と称しますが、

ゴッホは
まさに表現主義の先駆け。

(先駆けというか、そのものと言ってもいいです)



この絵は、見たままの景色を
写し取っただけではなく、

ゴッホの心の奥で眠っていた
故郷の原風景や、

祈りや恐れが表現されたものです。



早すぎた天才は、
活動していた間に評価されることは
ありませんでした。



しかし

「100年後の人々にも伝わる作品を
描きたいのだ」という

当時の本人の願い通り


現在、ゴッホの作品は、

世界中で大勢の人々の心を励まし
あたためるようになりました。




絵画の紹介(アートエッセイ)を
メールマガジンでも配信しています。

>7枚の絵画 無料メルマガはこちら

絵画を見る楽しさをお伝えしています
(登録無料・解除自由)

タイトルとURLをコピーしました