天秤を持つ女 フェルメール

十枚十色(解説&エッセイ)

『天秤を持つ女』
ヨハネス・フェルメール作
制作:1663頃
所蔵:ワシントン ナショナル ギャラリー



フェルメールは
世界中に、熱烈な愛好家がいる
画家です。



愛される理由として
まず挙げられるのは「希少性」でしょう。
(作品が少ない)



次に、謎に満ちた生涯。


どんな分野でも、謎があるところに
人々の関心は集まりますね。



それでいて、
作品のテーマは、日常のシーンが多く


宗教画と違って
現代人にも比較的分かりやすいことも

大事なポイントだと思います。


**********



フェルメール作品には、
いくつかの
定例的な「型」があります。


今日ご紹介している作品の場合は、


・画面向かって左の窓から
柔らかな光が差し込み、


・室内に一人(または二人)の
人物がいて、


・その人は、何かしらの日常的な
動作をしている


というパターンです。



窓に近いところの明るさと
部屋のすみの暗がりとの、


明確で、なおかつ自然な対比は


絵を見ている鑑賞者が

その場を疑似体験できるかのような
臨場感に表現されています。



ただし、フェルメールの臨場感は、
昨日送った、ルーベンスのような

大袈裟なものではありません。



ルーベンスの絵画は
動きのある、華やかな世界でしたが、


フェルメール作品にある「動き」は、
ごく小さなもの。




けれども、結果として現れる
振り幅は大きく、

「派手さ」こそないものの、

その分、ひとの心の機微に
触れるものがあるように思います。




さて、今日の一枚では、

室内にいる女性が
天秤を持っています。

女性の前にあるテーブルには、
真珠などが置かれています。


この状況から、かつてこの作品は

「金を量る女」や「真珠を量る女」と
称されたこともあります。



しかし、詳しい調査の結果、

天秤には、何も乗っていないことが
判明してからは、

「天秤を持つ女」と呼ばれるように
なりました。


※この時代、画家は自分で
タイトルをつけていません




では、女性は天秤を持って
何をしているのでしょうか?



天秤の上には何もない…


それは、状況を言い換えれば、

 目に見えないものを量っている
ということになります。





ここまで出てきた条件から、


この絵が
単なる生活のワンシーンを題材にした
風俗画ではなく、


日常的な場面を通して

この世の儚さを説く寓意画
(教訓的な概念を表現する絵)
であるとわかります。

さらに…


奥の壁には、
絵がかかっているのですが

その絵の主題は「最後の審判」です。
(※キリスト教の主題)



画面全体を引きの状態で見直すと、


壁にかかっている絵画のなかで
「最後の審判」の判定役として
描かれているであろう、


大天使ミカエルのあたり
(=重要な部分)を隠すように、

女性の姿が描かれていることに
思い至ります。




絵の中で、
魂の重さを量っているはずの
ミカエルと重なって、


現実世界として描かれたこの女性が
天秤を持っているかのようです。




彼女の手元は、絵画のちょうど
中央に描かれ、

鑑賞者の目線が、
絵の真ん中に集められるような

周到な構成になっていることが
分かります。




富裕層の穏やかな日常を描いた
オランダの風俗画として、

まずは、画家の卓越した技巧を
目で楽しめる絵画ですが、




同時に、読み解きの面白さも
提示してくれる、

とても奥行きのある一枚です。


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「バロック」という同じ様式でも、

ルーベンスが、
足すことでドラマを
完成させているとしたら

フェルメールは、
少ない要素を組み合わせるドラマ。


「引きの美学」が魅力です。


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