民衆を導く自由の女神 ウジェーヌ・ドラクロワ

十枚十色(解説&エッセイ)

『民衆を導く自由の女神』
ウジェーヌ・ドラクロワ作
制作:1830
所蔵:ルーヴル美術館



政治体制の変革を求める
フランス「7月革命」を題材にした
作品です。


政治的自由を
勝ち取ろうとする民衆の情熱が
描かれています。


熱い心を表すにふさわしい
ドラマチックな色彩の対比と、

複雑な構図は、
のちの世代の画家に大きく影響を
残しました。




この記事(アングルのグランドオダリスク)で


>絵には、現実がそのまま
>描かれているわけではない

と書きました。


言ってしまえば当たり前ですが、
つい忘れがちな事実です。



今日の一枚も
現実の出来事がテーマですが、

作者が、実際に目で見た場面ではなく
心の目に宿した情景が描かれています。



**********



たとえば、ボッティチェリの
「ヴィーナスの誕生」という作品では


ギリシア神話に登場する
アフロディテ(ヴィーナス)が
主人公でした。


今日の作品にも
女神が描かれているのですが、


この女神は、神話のなかで、
「自由を司どる女神」ではありません。

(そういう女神もいないです)



ここでは、自由を手に入れようとする
民衆の心が、

女神像の形で描かれています。


この女神は、
日本人の概念には少々馴染みにくい、

「概念」(心の中にあるもの)を
人の形で表現したものです。




ここは少々込み入った部分なので

とりあえずは「女神」と
考えても差し支えはありません。




ですが、
「女神さまが舞い降りて、民衆を救った場面」

という解釈に至ってしまうと

作者の意図とは
ズレが生じるように思います。


自由をもとめる情熱は
民衆の内側にあったものです。





この作品および、作者ドラクロワは、

「近代の幕開け」のような
位置付けで語られることがあります。



もう少し、視点を広くとらえるなら

この絵の作者ドラクロワが代表する
「ロマン主義」の頃から

絵画が、社会の中で果たす役割が
変わります。



これ以前の時代の絵画と
決定的に違うのは

画家が、自らの意志で
テーマを選んで描いている点です。





王家や皇帝などの支配者層、 あるいは、
裕福な貴族層などの発注によって

限定された内容を描くのではなく、


これ以降は、
画家が描く題材を選んで
制作するようになり

現代のスタイルと近い形になります。




画家自らが題材を選んで描く分、

絵画に託す思想が、
より重く宿っていることが

みえてくるのではないかと思います。



**********


女神が登場してはいるけれど、

例えば、イタリアルネサンスの頃に
メディチ家が画家に
描かせていた頃の絵画とは

根底にある世界が違っています。



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